今回の万博で見たかったもの、もう一つは中国館の月の裏側の砂でした。夕方になっていよいよ見学です。
午後早いうちは入場制限が掛かっていたスイス館。
1745の時点で待ち時間45分とのことで列につきました。意外にさくさく進んで、35分で入場。
きれいな影絵でスイスの風景を紹介する部屋や、シャボン玉が飛び交う部屋を通り過ぎると、スイスの科学技術の展示室があります。ここでチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(ESAのロゼッタ探査機が探査)の香りをかげるというのがスイス館訪問の目的。
甘味と鼻の奥がツンとする軽い刺激が合わさった香水のような不思議な香り。
彗星核は一酸化炭素とかシアン化合物を含んでるので真面目に再現すると体調悪化者が続出して大変なことになります。おそらくですが、彗星核に含まれている成分をアレンジしてイメージ映像ならぬイメージ香料として整えたのではないかと思います。
探査先の天体にどんな物質が含まれているかを計測するセンサーをスイスのベルンで作っているのが、この展示の背景にあります。

出口にアルプスの少女ハイジがいるのが上手い。いやアニメのハイジを知ってるの何歳以上だよという気もするのですが(私の世代ですら何度目かわからぬ再放送)、舞台になった相手の国から紹介されると、親しみが増します。
中国館。1835の時点で45分待ちといわれましたが、順調に列が動いて25分で入れました。
竹簡や木簡をイメージした建物には漢文や漢詩が書かれています。趣を凝らした建物が建ち並んでいる中でもひときわ目に付くパビリオン。「有朋自遠方来 不亦樂乎」あたりは中学の国語の漢文で学んだのだったか、「読める、読めるぞ」という感じ。義務教育で隣の国の古典を学んでいるんだな私たち。
入館して目に付くのが大きな円形スクリーン。
自然と調和した営みのシンボルとして二十四節気の風景をイラストで次々に映し出すのですが、合間に二十八宿や淳祐天文図が登場します。
もう一つ、展示の始めにあるのは殷墟の甲骨文字から秦代の文字が刻まれた青銅片、顔真卿の書を集めた冊子といった文物。
展示ケース前面がタッチパネルになっていて、説明文や3Dデータを呼び出せます。3Dデータはぐるぐる回せたり拡大できたりするので、これは子どもたちも大喜びで触っています。
ただタッチ面を透過して展示物を見ることになるので、細かい観察は不向き。詳細は3Dデータで見てくれという割り切りかもしれません。

また殷墟で発掘された巨大な青銅器もデンと置いてあります。よく持ってきたなと思ったのですが、実はこれらの考古展示はレプリカ。キャプションに複製表記がないので(もしく私が気付かなかったか)本物だと思って見ていました。
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殷墟博物館の所蔵品2点が日本大阪・関西万博で公開へ(人民網日本語版/2025.02.17)
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三星堆の文化財レプリカが大阪・関西万博で展示へ(人民中国/2025.03.13)
この辺りの事情は中国メディアも報じていて、レプリカも今回の展示のためにわざわざ作ったものもあるそうです。
ちなみに中国館は全般的に日本語の解説が充実しているのですが、イタリア館などキャプションが少なすぎて、本物と気付かず見学していたという人も。お国柄というか何というか。
1階から3階へ上がるスロープは日本と中国の友好に携わった人々のレリーフが飾られています。これは上手い演出。
阿倍仲麻呂に始まって、鑑真、最澄、空海……と続く人選が歴史好きをくすぐります。近現代では毛沢東や周恩来も出てくるのですが、毛沢東が微妙に距離を置いた扱いになっていたり、ケ小平と松下幸之助がセットで登場したり、どういう意図で選んだのか深読みしたくなります。
記録に残る日中史は漢委奴国王印から始まりますが、この時代は日本と中国は圧倒的な国力差があります。卑弥呼も遣隋使の聖徳太子も飛ばして、唐王朝で出世を遂げた阿倍仲麻呂から始まるのも面白い。逆に取り上げられていない人物が誰かを考るのも面白そう。
スロープを上りきった先の映像コーナーでは横長のスクリーンに、一日を十二支の時制で刻んで現代の人々のくらしを紹介する動画が流れます。エントランスの二十四節気といい、時と暦をもってくるのは心憎い。そして時も暦も日本は中国伝来のものを長らく標準として使ってきた歴史があり、今も日常生活の中に溶け込んでいることを想起させます。
それにしても映像に出てくる中国の人々の自信に満ちあふれた顔よ。
さて中国館の目的は嫦娥5号(月の表側を探査)と嫦娥6号(月の裏側を探査)が持ち帰った月の砂。特に嫦娥6号が探査した月の裏側は人類史上初めてサンプル回収に成功した快挙です。
イタリア館のファルネーゼのアトラスとともに、月の裏側の砂を見ることが出来るのが今回の万博見学の背中を押す決定打でした。
アメリカはアポロ計画に際して回収した月の石(11号から17号まで合計382kg)の一部を世界各国に配り、日本では上野の国立科学博物館に常設展示されています。中国の嫦娥計画は無人機でのサンプルリターンのため、表面の嫦娥5号が1.7kg、裏面の嫦娥6号で1.9kgほど。研究用にサンプルが配布されることはあっても、一般公開となると今後も機会は限られそうです。
まずは嫦娥5号が2020年に回収した月の表側・嵐の大洋で採取した砂。アクリル樹脂のドームに封入されての展示ですが、真上から見ると凸レンズ越しに見ている形で拡大状態で観察できます。
嫦娥5号の成功で、中国はアメリカ、旧ソ連に続いて世界で3番目に月からのサンプルリターンに成功した国となりました。
嫦娥6号は月の裏側、アポロクレーターでサンプルを採取しています。嫦娥6号の月探査は2024年6月ですから、まだ一年も経っていない採りたてホヤホヤの月の砂。
月は常に表側を地球へ向けているので、裏側へ降りる探査機は地球と直接通信が出来ない中での探査になります。人類を送り込んだアポロ計画の着陸点は安全面の考慮もあって全て月の表側でしたし、旧ソ連の無人探査機ルナ計画の着陸点もやはり表側です。
中国の嫦娥計画では月の裏側と地球を結ぶ通信衛星を配して月の裏側の探査を成功させました。
嫦娥5号・6号が持ち帰ったサンプルはいずれも黒い砂ですが、照明で相対的に黒く見えるのか、玄武岩質の砂で黒く見えるのかまでは素人目には判別できません。
男性スタッフ2名が付かず離れずの監視役で配置されているのですが、写真撮影はOKで「真上から撮った方がよく写る」などと声を掛けてくれます。たまたまかもしれませんが私の訪問時は日本語がそれほど堪能でない方で、ひとまず御礼だけ伝えて場を離れました。
ちなみに最新の科学技術の展示では、宇宙開発と深海調査艇「蛟竜」が二本柱。「蛟竜」は日本のしんかい6500を上回る水深7,062mの潜水に成功しています。日本はしんかい6500の後継機の目処が立っていないので、ここも差が開きつつある感があります。
それにしても中国パビリオン、歴史と伝統がある上に経済的な勢いがある国とはこういうものか。今日見たパビリオンの中では質量ともに頭一つ抜けた展示でした。
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