名古屋・
徳川美術館の特別展「
国宝 源氏物語絵巻」を見てきました。
紫式部の記した『源氏物語』は日本古典の名作ですが、これを絵巻物に仕立てたのが『源氏物語絵巻』です。
『源氏物語』が書かれたのは11世紀前半の藤原道長が権勢を振るった時代ですが、『源氏物語絵巻』の成立はそれから一世紀を経た12世紀前半と考えられています。およそ白河院・鳥羽院の院政期です。
かつて東京国立博物館で開かれた「日本国宝展」に『源氏物語絵巻』が出陳されていました。それでなくても教科書で見るような名品に圧倒されていたのですが、中でも『源氏物語絵巻』は千年を経てなお残る鮮やかな色彩が強く印象に残りました。古美術の絵画は写真で見る方が綺麗に見えたりするものですが、素人目にもびっくりするくらいに綺麗だったのです。
あれから幾年月。
徳川美術館の開館90周年記念展で『源氏物語絵巻』の全館一挙公開が行われるということで、名古屋まで出かけたのでした。
前の週も豊田市博物館の「深宇宙展」と、とよた科学体験館での上坂浩光監督の講演会に行ったばかりで、どちらか一週ずらしてくれたら一度で済んだものを、二週続けて愛知まで出かけることに。
徳川美術館も前回の企画展「
尾張徳川家 名品のすべて」を見に行ったばかりで2ヶ月連続。
実は源氏物語絵巻の全巻公開は開館80周年時以来の10年ぶりで、徳川美術館の公式サイトには「
過去の開催時には、展示室への入場まで最長で約3時間の待機列が発生」などと恐ろしいことが書いてあります。夕方に行って時間切れになってはいけないと、多少混むのは承知で朝一に出かけることにしました。
10時開館のところを9時に着いて、博物館の前には既に100人ほどの列。9時40分を過ぎた頃には入館が始まり、チケットを確認して展示室前のロビーまで移動します。館内で長時間待つことを想定してか、休憩場所(もちろん展示室外)では水分補給可という、博物館では異例のアナウンス。
少し繰り上げて09:57に展示室オープン。
徳川美術館は、新館の常設展示室→蓬左文庫展示室→本館展示室という流れになっていて、蓬左文庫展示室では企画展の「尾張家臣団」、本館展示室で特別展「国宝源氏物語絵巻」が開催されています。ふだんの徳川美術館なら一応の見学ルートはあるものの、行き来は自由ですし、再入場も可能。しかし今回は混雑を見越して一方通行で再入場も不可。
常設展示室は先月見たのでスルーして(常設の第5展示室に源氏物語の関連資料が展示されていたのでサッと見学)、蓬左文庫の企画展も涙を飲んでサッと通り抜け(絵図は好きなのでササッと見た)。
とにかく今回は「国宝源氏物語絵巻」に絞っての見学と定め、特別展の部屋にたどり着いたのは10:05でした。
展示は源氏物語の順番通りに絵巻が配置されていますが、最初が第15帖の「蓬生」(末摘花が出てくるところ)、続いて第16帖の「関屋」(空蝉が出てくるところ)から一続きの巻物になっている第17帖「絵合」の詞書の次は、第36帖の「柏木」まで飛んでしまいます。
国宝源氏物語絵巻は19面の絵が残っているのですが、光源氏の若い時代は2面、壮年期の柏木から御法までが8面、宇治十帖が9面と後半に偏っています。

「柏木」は悲劇的な場面が多いのですが、絵の状態もよく、光源氏が薫を抱き上げる場面は今回の特別展のキービジュアルにも使われています。
「御法」からは小康状態になった紫の上が明石の中宮を挟んで光源氏と対面している場面が描かれているのですが、現存している絵で紫の上が出てくるのがこの一枚。
「横笛」と「夕霧」には雲居の雁が出てくるのですが、拗ねてる場面だったり手紙を奪おうとする場面だったり、扱いが何というか、とても印象的。
宇治十帖では「橋姫」で薫が八の宮の娘の姉妹を垣間見る場面で、いかにもここから物語が動き出す感がよいです。
それだけに前半の華やかな部分が失われているのは惜しいことで、明石の御方や光源氏の六条院の場面はどのように描かれていたのだろう。もっとも顔で人物を判別するのは私には無理……
とかく絵ばかりが注目されがちな国宝源氏物語絵巻ですが、絵と絵をつなぐ詞書きも絢爛で、金箔銀箔を散らした料紙に見事なかなの書で物語が書き綴られています。正直、一行で一文字も判別できるかどうかですが、綺麗なのは素人でも分かります。
特に「鈴虫」から「御法」の辺りは散らし書きや細い筆致が入り交じって、読めないのですけど綺麗。あとで図録の解説を読んだら「鈴虫」を含む「柏木」から「御法」の部分は同じ人が書いたのだろうということです。
国宝源氏物語絵巻の詞書は5種類の筆跡があるそうで、さすがに全部は分からないにせよ、くせが違う書が混じっているのは分かります。
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