冒頭の概要と最後の京都と今の科学のお話は一般向けで、研究の紹介は一般向けの天文雑誌や科学雑誌を読んでる人くらいが対象なお話。
「XRISM」は運用事故で喪失したX線天文衛星「ひとみ(ASTRO-H)」の代替として打ち上げられた衛星で、2016年の「ひとみ」喪失から2023年の「XRISM」打ち上げまで7年半の月日を要しました。間にCOVID-19のパンデミックを挟む苦しい期間でした。
「XRISM」の顔と言えるのはResolveと名付けられたX線分光装置で、いわばX線のスペクトルを取る観測装置。カギを握るのはマイクロカロリーメータという装置で「宇宙一の低温」という273.1℃(0.05K)まで検出器を冷やします。飛び込んできたX線の光子が発するわずかなエネルギー量を正確に検出し、高分解のスペクトルを描き出します。とにかくこれがこれまでのX線天文衛星のスペクトルと桁違いの分解能を誇り、壇上でお話しされる先生方がデータのグラフを紹介しながら微笑みがあふれているのが印象的。
実はセンサーを保護するベベリウムの膜が外れていなくて、一部の波長が観測できないトラブルが起きているのですが(X線は多くの物体を透過してしまうので観測そのものは可能)、それでも素晴らしいデータが取れているそうです。
設計寿命は3年想定ですが、これは十分にクリアできる見通しで、2030年頃までの運用を計画しているそう。マイクロカロリーメータを冷やす冷凍機に液体ヘリウムを使っているので、次第に蒸発していくはずのヘリウムの残量が気になるところですが、「液体ヘリウムなしでも十分に冷やせる性能を持っている」「液体ヘリウムはある間は余裕を持って運転」「液体ヘリウムが尽きたら全力を出す(意訳)」ということで、こちらは心配ないようです。
可視光や赤外線望遠鏡は賑やかな写真が出ますが、XRISMは観測結果として出てくるのがスペクトルのグラフなので、一般向けの広報では少し不利な面はあるかもしれません。
でも銀河団やらブラックホールやら、この日の話だけでもワクワクする観測成果がたくさん出てきているので、これからの成果も楽しみです。面白い講演会でした。
以下余談。XRISMはやっぱり和名をつけて欲しかった、という気はします。
日本の人工衛星/探査機は開発上の名称と愛称が別に設定されることが多く、和名の愛称はわかりやすい反面、衛星の名前が2種類出来てしまうので、例えば取得したデータで論文を書く場合に煩雑になる欠点はあったようです。
MUSES-C:はやぶさ
PLANET-C:あかつき
HTV:こうのとり
特に国際プロジェクトの場合、海外チームはローマ字の名称を使い続けるので、日本チームだけ国内向けには和名を使うのはややこしいという事情は理解できます。
ただ、日常生活でXから始まる英単語に接する機会が少ないので、「XRISM」だとパッと読めないですし、何なら符号のように思えて、衛星名と認識しにくい。平仮名やカタカナの「くりずむ」「クリズム」でいいので、親しみやすい表記にしてもらえるとよかったと思います。
# ローマ字表記で受け入れられるのは、小型月着陸実証機「SLIM」くらいが許容範囲かなあ。
余談その2。講演では触れられなかったのですが、日本のX線天文衛星は「お家芸」と言われたほどの存在感を発揮してきた一方、打ち上げや運用トラブルでは何度も何度も不運に見舞われました。
○1976年2月4日 日本初のX線天文衛星「CORSA」打ち上げ失敗
→1979年2月21日 代替機「CORSA-b」を打ち上げ、「はくちょう」と命名
○2000年2月10日 X線天文衛星「ASTRO-E」打ち上げ失敗(「ひりゅう」の愛称を予定)
→2005年7月10日 代替機「ASTRO-EU」を打ち上げ、「すざく」と命名
○2016年3月26日 X線天文衛星「ひとみ」運用ミスで分解喪失(打ち上げから38日目)
→2023年9月7日 X線分光撮像衛星「XRISM」打ち上げ(運用中)
同じジャンルで3度も致命的なトラブルに見舞われたのはX線天文衛星だけで、どうしてまたという気がします。「CORSA-b」と「ASTRO-EU」は喪失機とほぼ同等の機能を持つ衛星が打ち上げられましたが、「XRISM」の観測機器は「ひとみ」の6種類から2種類に大幅に削減されました。最重要観測機器のマイクロカロリーメータに絞って確実を期しての再起だったといえます。
今回の国際会議のポスター(英語)と一般講演会のポスターが両方ともカッコよくて、フレームに入れて飾ってます。X線は地上に届かないので、X線天文衛星が人類が持つ「宇宙の目」になります。
がんばれXRISM!