奈良の秋の深まりを告げる正倉院展。2025年度で第77回を迎えています。
今回の目玉はなんと言っても「瑠璃坏」。
環形の飾りを周囲に施したグラスは、星のように気泡を含んだ澄んだ青ガラス。銀製の台座はやや黒ずんで落ち着いた姿ながら、目を凝らすと精細な龍の彫刻が刻まれています。いかにも日本離れした意匠は、「シルクロードの終着点」を象徴する、正倉院宝物を代表する逸品。
展示の大トリ、西新館の最後の部屋を一つまるまる使って瑠璃坏を展示していました。
360度全方位から見ることが出来る四角いガラスケースを部屋の中央に配し、細く絞ったLEDの照明で直上から瑠璃坏を照らし出します。グラスを透過した青い光がケースの底に複雑に模様を描き、息をのむような光景でした。日曜の午後で、人出は少なくないのですが、のんびり構えていれば人も入れ替わり、割と近くでじっくり見ることが出来ました。目線を水平に合わせたときが、写真でよく見る色合いに一番近い印象。見上げるような角度で見ると、透過光の青が素晴らしく美しい。
瑠璃坏の出展は2012年以来13年ぶり。前回は西新館の最初の部屋をやはりまるまる一つ使っての展示で、列に並んでゆっくり進みながら眺める形でした。今回の方がずっとじっくり見ることが出来たのですが、一つは照明の技術がよくなっていることと、もう一つは日時指定入場が定着し、混み具合もある程度は抑制した状況での見学になったことが大きいと思います。
定員が出来たようなものなので入館料が上がるのは止む無しですが、土日祝の券は早めに売り切れるのでフラっと行けなくなりました。
面白かったものをいくつか挙げると、「天平宝物筆」と「縹縷」。天平宝物筆は大仏開眼の儀式で用いられた特大の筆で、天平創建時は菩提僊那僧正が手にしたはず。源平合戦の兵火で大仏殿が焼けたのち、鎌倉再建時には後白河法皇が開眼の筆を執り、その旨が筆の軸に記されています。大仏の頭の高さまで櫓を組んで登ったのかと思うと大変な話です。
縹縷は「はなだのる」と呼ぶ藍染めの絹の紐で、推定で全長198m。紐の一端を筆に結んで、参列した大勢の人が垂らされた紐を手にし、共に開眼の儀に参加したというものです。やや退色はあるものの藍の色が鮮明に残っています。今で言えばテープカットの紐を保存しているようなもので(こちらは切りはしませんけど)、よく残しておいたものです。
「平螺鈿背円鏡」は背面を螺鈿や琥珀やタイマイで豪奢に装飾した鏡。聖武天皇ゆかりの鏡は正倉院に18面あるそうで、意匠違いのものがたびたび出展されます。前に見たような気がしても同じものかどうか記憶だけでは分からないのですが、今回は2013年に出展されたもので、2度目の見学でした。
「蘭奢待」は実は3回目。私は2011年に初めて見たのですが、2019年も東京国立博物館で展示され、そして今回。
足利義政と織田信長そして明治天皇が切り取った場所には付箋が貼られていて、みんなそれを見たがるので、ガラスケースの一方だけ人だかりが出来ます。この夏の「正倉院 THE SHOW」展で蘭奢待の香りを再現したものをかいだのですが、ほぼシナモンケーキのような、シナモンの香りに甘さを加えたような香りでした。
「甘竹簫」は竹の笛がたくさん(18本)並べた笛で、以前は2つに別れた状態で保管されていたものが、調査の結果本来は一つのものと分かり、本来の形に修復されたもの。これも2019年の東京国立博物館に出ていました。
「鳥毛篆書屏風」も2019年の東博で見ているのですが、その時は第1扇と第2扇のみだったので、6扇すべて揃った状態で見るのは初めて。鳥の毛はけっこう傷んでいるのですが、双眼鏡で見ると確認できます。
展示の後半、西新館の南側は文書類が並ぶのですが、東新館側に出ていた文書の「沙金桂心請文」は正倉院からの出庫を管理した文書で、砂金や薬品の量と使途を記した申請書に、大きく「宜」(よろしい)のサインが入っています。光明皇后の筆とされているそうで、さもありなんという雰囲気。光明皇后は割とがっしりした字を書く人で、このサインもその印象に沿ったものなのです。
後で出陳一覧を確認したら主な出展物では「木画紫檀双六局」とその関連の品々が2012年以来、「投壺」「投壺矢」が2013年以来で、二度目の見学になるものでした。正倉院の宝物は同系統のものが何点もあるので、前に見たような気がしても実は初めて見るというものが多いのですが、実際に前に見たものが増えてきました。
正倉院展で一度出陳されたものは、次の出陳まで10年以上は間を置くと言われているのですが、「前に見た」ものがこうもいくつも出てくるようになると、自分自身も年齢を重ねたことを思い知らされます。こちらの中身はたいして成長もしていないのに……
奈良博には明るいうちに入館したのですが、出てきたときにはとっぷり日が暮れていました。入館したのは15:50頃。退館したのは18:15頃で、2時間ちょっと見ていたことになります。
奈良へ来たのだからと東大寺にお参りしてきました。18時過ぎですから大仏殿はとうに閉まっていて、いつもならそれでも二月堂まで行くところですが、雨模様だったので南大門で手を合わせて帰途につきました。
・大阪歴史博物館 特別展「正倉院 THE SHOW」 2025年07月13日
・第75回正倉院展(2023年度) 2023年11月04日
・東京国立博物館「正倉院の世界」展 2019年10月25日
・第70回正倉院展(2018年度) 2018年10月30日
・第68回正倉院展(2016年度) 2016年11月05日
・第67回正倉院展(2015年度) 2015年11月03日
・第65回正倉院展(2013年度) 2013年11月04日
・第64回正倉院展(2012年度) 2012年11月03日
・第63回正倉院展(2011年度) 2011年11月12日
2025年10月26日
第77回正倉院展(2025年度)
posted by ふくだ at 23:46| Comment(0)
| 博物館や美術館
この記事へのコメント
コメントを書く