2011年11月12日

第63回正倉院展(2011年度)

 奈良国立博物館の正倉院展へ行って来ました。
 正倉院は言わずと知れた東大寺の蔵。現在は宮内庁が管理しています。収蔵物は通常、非公開ですが、秋に行われる虫干しに合わせて、その一部が奈良国立博物館で一般公開されます。

 奈良は決して遠い場所ではないのですが、テレビなどでは毎年長蛇の列が映し出されるので、人ごみの苦手な私は避けていました。が、「そんなに混んでない時もあるよ」という話を聞いて、その気になって出かけてきました。 奈良国立博物館に着いたのは10時43分。すでに60分待ちの列が出来ていました。土曜日なので、いちおうそこまでは想定内。実際は40分ほどで館内に入れました(チケットは予め近鉄奈良駅で買っていました)。

 正倉院展に出展される収蔵物は、毎年入れ替わっています。今年の目玉は「金銀鈿荘唐大刀(きんぎんでんそうのからたち)」「黄熟香(おうじゅくこう)」「七条織成樹皮色袈裟(しちじょうしょくせいじゅひしょくのけさ)」あたり。このうち「黄熟香」は「蘭奢待(らんじゃたい)」の通称のほうが知られています。天下第一の名香とうたわれ、織田信長をはじめとする歴史上の著名人が切り取ったことで、たびたび歴史物のテレビ番組や漫画の題材になっています。

 蘭奢待は、長さ156cm、重さ11.6kg(写真はWikimedia Commonsより)。展示物の中でも大きな方で、四方から眺めることが出来るガラスケースに収められています。何も知らなければ流木か何かと思ってしまいそうですが、もちろん私を含めた客のほとんどは予備知識つき。
 正面に当たる部分に、付箋が三枚。左から「明治十年依勅切之」「織田信長拝賜之為」「足利義政拝賜之為」と書かれたものが貼られています。これがありがたみを増しているのですが、実は付箋は明治になってから貼られたもの。実物を見ると他にも切り取り跡はたくさんあり、鋸の筋だけ深く残っているものもあって、もう少し丁寧に切ってやりなよと思ってしまいます。2006年の大阪大学の調査では、切り取り跡は38カ所。同じ場所で切り取ったものがあることを考慮すると、おそらく50回以上は切り取られたのではないかとのお話。

 蘭奢待の周囲はお香にまつわる収蔵物が出展されていますが、一目で凄いというものから、なんだこれはというものまで、様々な展示物があります。正倉院は宝物のイメージが強いのですが、日用品に近いものや行政文書なども数多く収められているのです。「裛衣香(えびこう)」という白い布の袋は、防虫効果を期待してお香を詰めた香り袋。今で言えばパラゾールやタンスにゴンといった防虫剤です。中には巾着の綴じ紐が切れたのか、ただの円形の布になっているものもあり、捨てずに残しておいたのが不思議なくらい。
 人波に揉まれて陳列ケースの前に来て、やっと見えたのがこれだと脱力するのですが、考えてみれば何から何まで残してきたのが正倉院の凄まじいところ。消耗品的なものや一度きりの儀式で使った布など、捨てて新調してもよさそうなものですが、とにかく後世に伝えてきたというのが、そのまま収蔵物全体の価値になっています。

 展示物のうち、比較的保存状態がよいのは工芸品全般。布製品は状態が良いものでも変色・褪色して、元の姿を想像するのが難しくなっています。「七条織成樹皮色袈裟」は聖武天皇が出家したときに着用したという銘品ですが、これも退色した上にところどころが破損。
 この袈裟は、本体と袈裟を入れる袋、それをしまう箱と箱を包む布の4点がセットになっていて、一連の品物を当時の状態に復元したものと合わせて展示されています。見比べると当時の様子が想像でき、ひいては他の布製品の当時の様子を想像するよすがになるわけです。この辺りの見せ方はうまいな、と思います。

 最大の人気出展物は「金銀鈿荘唐大刀」。聖武天皇の佩刀とのことで、鞘には唐草文様の金具と赤青白の水晶やガラスが嵌め込まれ、これぞ正倉院宝物という豪華さ。展示室内にさらに列ができて、間近で見ようとすると、10分ほどの待ち時間が要りました。鞘の豪華さは言うまでもないのですが、大刀の切っ先部分だけ峰に回りこんで刃が付けられているのが不思議でした。先端だけ剣になっている状態の刀をはじめて見ました。

 あとは文書がたくさん展示されていたのですが、地図好きの目を引いたのは「東大寺山堺四至図」。756(天平勝宝8)年に作られたもので、大仏が出来た4年後の東大寺の境界を示したものです。東大寺の歴史を記した本には必ず出てくる資料で、これの実物を見ることが出来たのは望外の喜び。
 「羂索堂」の名で三月堂が載っている一方(三月堂の本尊は不空羂索観音立像)、二月堂の姿はなく、付近に今は別の場所に移った「千手堂」が記されているなど、興味深い地図です。これの解説本があったら買ったかも。

 ということで、展示を全部見るのに2時間かかりました。内部の待ち時間を引けば、正味1時間から1時間半というところ。13時過ぎに退出したときは、入場待ちの列が30分を切っていたので、どうやらこの日一番のピークに突っ込んでしまったようです。
# 朝一から午前中が混んで、午後以降は比較的余裕があるみたい。次回の参考にしよう。

 そうそう、正倉院展に限らずですが、博物館には双眼鏡を持っていくのがおすすめ。
 国宝・重文級の文化財、特に工芸品は細かい作りこみが多く、双眼鏡で見ると、作り手の息遣いすら聞こえてきそうなディティールを感じることができます。一度の展示で二度おいしい。思わず息を飲んでしまう場面もしばしばです。

 単眼鏡持参のひとはたまに見かけるのですが、覗きやすさでは双眼鏡のほうが上。ただし双眼鏡は、最短合焦距離が2m以上のものが多く、それだと展示品を見るにはちょっと難しい。少なくとも2m未満、できれば1m程度の製品がほしいところです(単眼鏡はこの点、最短合焦距離の短いものが多かったりします)。
# Papilio 6.5×21 Maniac(PDF)←ここの24ページに最短合焦距離2m未満の双眼鏡一覧が!

 ちなみに私が持っているのはPENTAXパピリオ6.5×21。最短合焦距離0.5mという、ルーペ代わりに使える代物です。口径が小さいので天体用には厳しいのですが、他ではオールマイティに使えます。
 って、正倉院展の話をしていて、なんでオチが双眼鏡なんだ。
posted by ふくだ at 23:45| Comment(2) | TrackBack(0) | 博物館や美術館
この記事へのコメント
自分が正倉院展に行ったのはいつだったか? 入場券が置いてあったはずと調べてみると平成5年でした。
確かに奈良は決して遠くはないのですが、人が多いのは避けたいということで、その時は前日から猿沢の池の近くの旅館に泊まって観に行った記憶があります。
Posted by やすくん at 2011年11月17日 00:12
今回は「オータムレイト」といって、閉館1時間半前から発売される割引入場券がありました。たぶん午後の遅い時間は比較的空いているのだと思います。

昼間は付近の社寺を楽しんで、夕方は悠々と(?)正倉院展を見て、閉館後は夕暮れの奈良を楽しみ、でもってそのまま奈良に宿泊、というのもいいかもしれません。
Posted by ふくだ at 2011年11月17日 22:34
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