その中でもシンボル的存在だったファルネーゼのアトラスを初めとする4点の作品を再構成したのが今回の特別展です。万博会期中は連日5時間を越える行列ができ、あまりの混雑に見学をあきらめた人も多いイタリア館の「延長戦」的な展覧会です。
特別展のタイトルにもなっているファルネーゼのアトラスは1546年頃、ローマのカラカラ浴場跡で発見。
後に名門貴族のファルネーゼ家が収集し、その宮殿に飾られていたため「ファルネーゼのアトラス」の名があります。
2世紀(紀元150年頃)の像ですが、発見時に残っていたのは天球と胴体・顔の一部。
手足などは16世紀の後補で、お尻や腕の付け根に修復の跡があり、よく見ると違う大理石を使っているのが分かります。後で補った部分もルネッサンス期の彫刻なので、違和感を感じないほどに修復時の技術水準が高いのでしょう(推測)。
彫像の題材はギリシア神話。オリンポスの神々との戦いに敗れた巨人族のアトラスは、罰として天空を背負う役目を命じられました。
天空は天球儀として表されています。天球儀は地球儀の星空版といったもので、天を球体に見立てて、星座を球の表面に描いています。地球は天球儀の中心にあり、内側から星空を見ている設定。天球儀は外側からの視点なので、描かれる星座は裏像になっています。
ファルネーゼのアトラスは、古代ギリシアの彫刻を元にローマ時代に作られた模刻と考えられています。ローマの人たちはギリシアの文化を大切にしたので、ギリシア彫刻に範をとったローマン・レプリカといわれる彫刻がたくさん作られたとか。
このファルネーゼのアトラスが担いでいる天球儀が、現存最古の天球儀とされています。
現在、日本国内では300余りのプラネタリウムが設置されていますが、プラネタリウムは星空を表現する機能と惑星の動きを再現する機能の組み合わせから成り立っています。その星空を表現する機能の源流は天球儀にあり、ファルネーゼのアトラスはプラネタリウムの祖先の一つに位置づけられています。
当時使われていたトレミー(プトレマイオス)の48星座のうち、天球儀に刻まれて今も残る星座は42あります。残る6星座のうち、こぐま座とおおぐま座の2星座は欠損、や座・こうま座・さんかく座・みなみのうお座の4星座は刻まれていません。や座・こうま座・さんかく座は比較的小さな星座で、みなみのうお座はアトラスの肩のマントに接して隠れる部分にあります。
頂部の欠落部には天球儀を穿つように円筒状の穴が空いていると言いますが、万博イタリア館でも今回の大阪市立美術館でもその様子を見ることは出来ません。
ファルネーゼのアトラスを上から撮影した写真は検索でもなかなか出てこなくて、唯一見たのが下記のTwitter投稿の写真です。
https://x.com/aju_kukan/status/1913216050008924409
全くの当て推量ですが、天球儀に穴を空けたのは重量軽減のためで、本来は穴を塞ぐような蓋のパーツがあり、そこにこぐま座とおおぐま座が刻まれていたのではないかと思います。
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